30円のたまごが90円になるとき

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コンビニエンスストアの季節限定商品といえば、おでんや中華まんが代表的ですが、最近ではめっきりおでんの姿が見られなくなりました。
私がアルバイトをしていたころは、おでんブームといわんばかりの人気商品だったのです。
日が暮れて寒くなってくると、店内の照明の明るさにつられて仕事帰りのおじ様方がぞくぞくとご来店されます。

店内に入ると、おでんのおいしい匂いにつられてなのか、必ずと言っていいほど注文が入り、お弁当をあたためながらおでんも用意して天手古舞になります。
しかし、ほとんどが常連のお客さんなので、1人で店番をしていることを知っていることもあって、文句ひとつ言わずに並んでいてくれます。
それに感謝しながら、何とか切り盛りしていました。

混雑時のピークを終えたころになると、おでんの鍋はスッカラカンで、たまに売れ損ねたハンペンがプカプカと浮いているのですが、何だかかわいそうです。
けれど、鍋の中を優雅に泳いでいるようにも見えて、「プッ」と笑ってしまうときもありました。
私は、コンビニエンスストアに働きにきているのに、夕暮れどきからは飲み屋のママにでもなったのかと、思ってしまうくらいおでんの売り上げが上がります。
でも、私が働いている時間にどれくらい売れるのかが日によってまちまちです。
人気のネタだからといって大量に仕込むというのも廃棄になる可能性が高くなってしまうので見極めるのも難しかったです。
私にとっては季節限定のお悩み商品でもありましたが、どうしても鍋の中にビッシリネタが入っていないと気合が入らないので、隙間ないくらいに仕込んでいました。
今思えばあのボリューム感は、芸術的だと言えるくらいです。

ダシをじわっと染みこむまで裏表にひっくり返したり、煮込みながらもダシを加えながら味を整えたり・・・・。
手間をかけて仕込んでいるうちに愛情という隠し味までしみ込んだおでんたち。
それが売れるときは嬉しいけれど、手間暇かけている分だけ、一番最初に注文されるお客さんにいら立ってしまうことも多々あったりして…。
その中でも卵の存在は特別だったのです。
だって、自分でゆでて、冷やして殻をむいて、ゆで卵にしていたのですもん。
しかもお湯を沸かすポットで…。
卵20個をポットに入れてお湯を沸かすのです。
この作り方を教えてもらったときは、さすがにビックリしましたが、慣れってこわいもので、それが普通だと思えるようになるのですから。
フタは閉まらないので、気持ち卵の上に軽く置き、グツグツと、ゆでている間にカラが割れて、冷水に入れるときはツルンツルンむけて気持ちがいいのです。
でも、他のネタは発注して仕入れるのに、なぜ卵だけは手作りなのかと思っていたのですけれど、すぐに分かってしまいました。

その卵は、10個入り298円の商品、商品から商品を作ると生卵の廃棄が無くなるのです。
だって、おでんの卵は大人気商品ですもの…。
1個30円にも満たない生卵が、おでんの卵として90円で売れてゆく、さらに原価はもっと安いはずです。
本当に小さな売り上げだけれど、それでも10個も売れれば900円になるのですからアッパレです。
夕方から飲み屋のママのようになる私の心の中は、「これ30円にも満たない店内で売られている生卵ですけれど、よろしいですか?」。
そう投げかけながら、それを「ありがとうございます」の声に変えてお渡します。

卵が注文される度に60円も儲けていることに何となく複雑な心境になっていたので、せめてものサービスとして、どのお客さんにもツユダクにしていました。
その度にオーナーさんのマーケティングには驚かされつつ、疑問に思いつつ…。
それでも発注して仕入れるおでん用のゆで卵よりは、新鮮で安全な商品であることは間違いないのです。
しかし、内部事情を知っている私と卵たちは、冬になる度に何とも言えない複雑な立場に立たされるはめに・・・。

原価と売価の差の大きさに心を痛めつつも、コンビニのおでんを売りさばいた後は、車道を挟んだ斜め前の飲み屋に一杯やりに行くのが楽しみでした。
そのついでにマスターのおでんに、ゆで卵を仕込むプチバイトをしていた私なのでした(笑)